第3回オーバーラップ文庫大賞受賞作発表
金 賞
『聖騎士さんすごいですね! それほどでもない! 〜魔王との最後の戦いに敗れた結果、世界に平和が訪れ、俺は高校生になっていたんだが!? うっ、頭が……〜』/小幡京人
特別賞
『ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず』/遠藤遼
『クラークマン・アウトメモリー』/蓮見
総評
第3回オーバーラップ文庫大賞へのたくさんのご応募、誠にありがとうございました。
1年間で2ターンの募集を行い、合計743作品をご応募いただきました。
オーバーラップ文庫大賞は今回で3回目を迎え、今回も多くの応募をいただけたことを嬉しく思っています。そして、皆さんの期待に応えられるよう、誠心誠意選考をすすめさせていただきました。
結果、今回の大賞では3作品を選出させていただきました。
金賞『聖騎士さんすごいですね! それほどでもない! 〜魔王との最後の戦いに敗れた結果、世界に平和が訪れ、俺は高校生になっていたんだが!? うっ、頭が……〜』
特別賞『ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず』
特別賞『クラークマン・アウトメモリー』
応募作品の中には、書き手の情熱をぶつけた意欲的な作品から流行を研究して生み出された作品まで見られ、「面白い」を様々なアプローチから突き詰めていることがうかがえました。
『聖騎士さんすごいですね! それほどでもない!』は主人公の強烈なキャラが光りつつ、バリエーション豊かなヒロイン達を楽しめ、『ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず』は古代ローマというややマイナーな題材を、偉人女性化というライトノベルらしい形で楽しくまとめており、『クラークマン・アウトメモリー』は独特の世界観を情感たっぷりに描いていて引き込まれました。
受賞作は2017年1月より順次刊行予定となっております。ご期待ください。
オーバーラップ文庫では引き続き、この文庫大賞にて新たな才能の発掘に取り組んでいます。
既に原稿募集中の第4回のオーバーラップ文庫大賞では、第2ターンの締め切りが目前となっています。これからのオーバーラップ文庫を担う作品が来ることを編集部一同楽しみにお待ちしています。
審査員講評
◆十文字青
ご存じのとおり、WEB発小説がライトノベルの市場を席巻しはじめてからしばらく経ちました。WEB小説は一定の広がりを見せながらも収斂しつつある、というよりも、すでに収斂してバリエーションが互いに競い合っていると言ってもよい状況だと思います。
新人賞の応募作にもWEB小説の影響が色濃く表れています。WEB発小説がこれだけ重要な位置を占めているのですから、そうなるのも当然でしょう。
でも敢えて訊きたい。なぜあなたはその原稿をわざわざ新人賞に応募するのでしょうか? WEBで連載しないで新人賞に投稿する理由は?
正直、現状では、WEBで連載し、好評を博して書籍化という流れがもっとも確実で、ある程度のヒットを見込めます。たとえあなたが実際にWEB小説に接していなくても、少し調べればそのくらいのことはわかるはずです。ならば今、どうしてわざわざ新人賞に?
小説に限りませんが、あらゆるエンターテイメント作品には、媒体に適した表現形式、表現方法というものがあります。WEB小説はそのあたりがとてもよく研究されていて、「勘所」を外した小説はほとんど見向きもされません。人気のあるWEB小説を読むことで、誰でもその手法を学ぶことができ、適切な注意力と思考力と意欲と根気さえあれば、あなたはそれを身につけた上で人々に読んでもらえそうなWEB小説を書くことができるでしょう。うまくいけばあなたのWEB小説は多くの人の目に触れ、書籍化、プロの作家への道が開かれます。そのときあなたの小説はすでに一定の読者を獲得していますから、一巻で打ち切りという事態にはなりにくいはずです。あけすけに言うと、新人賞を受賞して出版された小説にはその可能性が多分にあります。あくまで現時点での話ですが、新人賞を受賞してデビューする作家が歩むのは茨の道なのです。
なぜあなたはその道を選ぼうとするのですか? そんな「状況」なんて知らなかった、新人賞に応募する以外に方法があるなんて思ってもみなかったからですか。ただなんとなくですか。それとも、WEB小説とは違った小説が書きたくて、読んでもらいたかったからですか。
いずれにせよ、新人賞を受賞するには、書き手が自覚的か無自覚かにかかわらず、「何か」が必要です。多くのWEB発小説はその「何か」を間違いなく備えています。そうでなければそもそも読んでもらえず、「土俵」に立てないからでしょう。それらと伍する、いや、凌駕するだけの「何か」を持っている小説でなければ、たとえ出版されたとしても静かに消え去るのみです。それが現実なので、新人賞作家にはそうした「威力」を持つ小説を書く才能が求められています。
一方で、今あえて新人賞に応募してきてくれた作家たちに何を提供できるのか、どうすればそうした作家たちに力を発揮してもらえるか熟慮し、考えるだけではなく実行してゆかなければならないという話も、編集部の方々とよくしています。選考会でも、作品自体だけではなく、作家の個性や今後の展望についても議論します。
今回の受賞作のみならず、受賞した作家たちが、すぐれたライトノベルを世に送りだし、たくさんの人たちを楽しませ、豊かな時間をつくりだしてゆくことを願ってやみません。そのために、もし僕のような者にでもできることがあれば、微力ではありますが何でもしたいと思っています。オーバーラップ文庫編集部も力を尽くしてくれるはずです。
すべてはおもしろい小説のために。もちろん、読者のために。そして、明日を生みだす作家たちのために。僕らは進んでゆかなければなりません。足を止めずに、一歩一歩。
◆錦織 博
今回もたくさんの応募ありがとうございました。
僕の場合、アニメ監督という職業柄か、物語を楽しむというよりは、どうしてもアニメーション作品をつくるという視点で読んでしまいます。
独特の世界観で活躍するキャラクターを思い浮かべているとワクワクしますし、実際に動かしてみたいなと思うこともしばしばです。
今回の入選作は、どれもキャラクターが活き活きと描かれていて、頭の中で楽しく話したり、動き回るのを感じられたのがよかったです。
「ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず」は定番のパターンながら、キャラクターが可愛く描けているし、独特の語り口も魅力的です。少し史実に頼り過ぎているところがあるので、この世界の中でのディテールや人物の動かし方をもっと細部までこだわって描けると良いなと思いました。
「クラークマン・アウトメモリー」は設定やアイデア、全体のムードはとても面白いですし、密室劇のような感じで進むのも興味深く読めました。登場人物の心情に踏み込まないのは作風としてはアリですが、読者に共感してもらうための表現は必要かもしれません。
「聖戦士さんすごいですね! それほどでもない!」はまず、どんどん読み進めていける楽しさがあるのが素晴らしいです。キャラクターの描きわけや人物像もうまく描けていますし、全体のバランスも良いのですが、課題としては、そこから枠を外れていくような勢いがあればなあと。そういう意味では、テクニックうんぬんよりもむしろ、作者の意志を超えて展開を引っ張っていくような破天荒なキャラクターをつくることが近道になるかもしれません。
応募作を書こうというときには、どうしてもきれいにまとまった作品をつくろうとしてしまいます。もちろん、自分が書くのは「どんな話なのか」を考えることは大事なポイントですが、書いているうちに思わず拡がってしまった、ある描写に必要以上にこだわってしまった、となることを恐れずに自分の想いを叩きつけていってほしいです。
作者が全く想定していなかった箇所に才能の芽を見つけられることもあるでしょう。
最初に映像を浮かべて読んでいるといいましたが、逆に「映像化不可能」といわれるような、壮大なスケール、または比類ない世界を描くことに挑戦して、僕たちを驚かせてください!
◆サイトウケンジ
前回に引き続き、審査員をさせていただきました。サイトウケンジです。
僕はどうしてもキャラクター重視の視点で見るので、総評もその観点から話させていただきます。
今回の三作品は、正にキャラクターを描くという点で差がついたものかもしれません。
三作品とも、評価が大変分かりやすいものでした。
キャラクター評価の高かった順番でその辺りをお話します。
■『聖騎士さんすごいですね! それほどでもない!』
様々な女の子が出てくる、いわゆるハーレム系のライトノベルでした。大勢の女の子が出てくる作品では、本来『同時に存在している時の処理』というのが大変なのですが(いるはずなのに全く会話に参加しないキャラがいたりすることがよくあります)、この作品ではそれぞれのヒロインが完全に違うコミュニティに属している為、ほとんど重なって登場することがありませんでした。ヒロイン格、それぞれのヒロインに属するサブキャラのバランスも取れていました。
更に、そんなヒロインたちを魅力的に見せていたのは主人公の言動かもしれません。あまりにも理不尽な物言いをする主人公に対して、彼女たちがどう対応しているかというものが見えました。総じて突飛なことを言い出す主人公に対して優しい彼女らは、その価値観であるとか、許容範囲がよく見えた結果、全員に好感が持てるようにキャラクターを立てられたのだと思います。
読んでいると、主人公やヒロインたちの日常をもっと見てみたいと思える、そんなキャラクターたちでした。
■『ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず』
歴史上の人物を女体化する時に最も重視すべき点は、その価値観をどう見せるか、というものかもしれません。そういう意味では、この作品は実に惜しいものでした。確かにメインヒロインを始めとしたキャラクターたちは可愛いのですが、歴史的な事実という揺るぎない『プロット』のせいでその本質が発揮出来なかったのだと思います。
前向きで元気なヒロイン、ツンデレと物静かなサブヒロイン、最後にポッと出たサブヒロイン……。せっかくの『歴史上の人物』という美味しい価値観の見せ所を、よくある形に当てはめてしまった結果、その根底にある生き様であるとか、人間らしさであるとかが欠如していってしまったのかもしれません。
また、主人公の物分りが良く、全てをスッと受け入れてしまうせいで、余計に彼女らとの意見交換が発生しなかったのも、勿体無い部分だったかと思います。主人公がどう思っているか、それに対してヒロインがどう感じているか、そういった掘り下げをもっと見せて貰えば、印象はまた変わったのかもしれません。
■『クラークマン・アウトメモリー』
キャラクターという観点で見ると、最も残念な作品でした。登場人物が多いのですが、それぞれに感情移入をする前にミステリー、サスペンス調のデスゲームが始まってしまうので、キャラクターの主義や主張、生き様などが見えないうちにどんどんいなくなってしまう、というものでした。『やりたいことは分からなくもない』というキャラクターたちなので、それぞれのキャラクターが自分の想いであるとか、感情であるとかをもっと見せていただければ、少しは彼らに寄り添いながら読むことが出来たのではないでしょうか。
一番、キャラクターの中で納得出来たのは悪役だったというのも、勿体無い要素のひとつです。悪役の掘り下げはある程度頑張っていたので、主人公をその対比としてもっと掘り下げることが出来れば、主人公にも好感を持ったり、感情移入が出来たのかもしれません。
今回の審査で最も重視されたのが『本当に作者の好きなものを書いたのか』という点でした。技術の面(文章力や構成力)などは修正を重ね、編集さんと相談し、作品としっかり向き合うことで磨いていけるものです。ですが、作家本人の『魂』のようなものを叩き込んでいるかどうか、好きで好きでたまらないから書いたのかどうか、という『想い』のようなものを感じられるかどうかが焦点だったように感じます。
当たり前のものでも、よくあるものでも、王道的なものでも、本気で「これが好き」という作品であれば、粗削りであっても楽しめるものです。形式にこだわり、流行にこだわり、良い子ちゃんであろうとして作った作品では、作者本来の持つ魅力と、その代弁者たるキャラクターたちの良さからどんどん離れてしまうのかもしれません。
ただ、今回はどの作品もメインヒロインがよくある『強気ですぐ怒るツンツンした暴力娘』というものではなかったので、そのブームも去ったのだと安心しました。流行やテンプレートにこだわらず、自分の書きたいキャラクターと主義主張をもっと見たいので、今後とも期待していきたいと思います。
受賞者コメント
★『聖騎士さんすごいですね! それほどでもない! 〜魔王との最後の戦いに敗れた結果、世界に平和が訪れ、俺は高校生になっていたんだが!? うっ、頭が……〜』/小幡京人
よくもまあこんな作品を金賞に選んでいただき誠にありがとうございます(?)
受賞の連絡をいただいたときは、「金賞だ、やったー!」ではなく「金賞だ、やっべー!」という感想で、「本当にこれを本にしていいのか?」という不安でしばらく部屋を歩き回りました。
私自身この作品の発表を中学生時代に書き溜めた黒歴史ノートを晒すくらいに恥ずかしいと思っていて、親兄弟、ごく親しい友人にも受賞を隠しています。これから先も隠し続けることでしょう。
編集様の助言を受けた改稿で、まともでない作品をまともに読める作品にし、皆様にお届けできればと考えています。
受賞できたのは編集部の皆様と審査員の先生方に何か悪いものが憑りついた結果だと思うので、思い上がらず、とにかく面白いものを書きたい、面白さを誰かに伝えたいという芸人魂を忘れず、今後とも精進していきます。よろしくお願いします。
★『ユリア・カエサルは一日にして英雄ならず』/遠藤遼
初めまして。このたび特別賞をいただきました遠藤遼と申します。
担当の方から受賞の連絡をいただいたとき、初めての電話にもかかわらず、「顔の見えない電話こそ元気よく」を実践してしまい、ちょっと引かれていたかもしれません。実は内心ドキドキでした。その後も、夢なのではないか、新手の詐欺に遭ったのではないか、テンション高いヤツと警戒されたのではとオロオロしていたものです。
昔からライトノベルが好きでした。ちょっとしたきっかけで、自分で物語を書きたくなり、物語を書くことに取り憑かれ、キャラクターたちが動き出す楽しさに魅了され、一気に書き上げました。
評価いただいた審査員の先生方、編集部のみなさま方には心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
まだまだ未熟者ですが、みなさまに楽しんでいただける作品をお届けできたら、ライトノベル作家として最高に幸せです。応援、よろしくお願いします。
★『クラークマン・アウトメモリー』/蓮見
こんにちは。
今回「クラークマン・アウトメモリー」で、第三回オーバーラップ文庫大賞の特別賞を頂いた蓮見と申します。受賞させて頂き、とてもありがたく存じます。
受賞作は本として刊行できるということなので、これから投稿作を改稿し、応募時よりもより良い形にブラッシュアップした上で、多くの方に拙作を読んで頂けたら——そして、あわよくば、一人でも多くの方に面白いと感じて頂けたら、とても嬉しいです。