第1回オーバーラップ文庫大賞 受賞作発表
金 賞
『コートボニー教授の永続魔石』/J.I.A
銀 賞
『STAЯ[D]UST OCЁAN』/GIRA
佳 作
『俺のバイト先は悪の組織』 /千輝紅葉
『もう恋なんてしたくない 』/輝 待時
総評
第1回オーバーラップ文庫大賞へ多くのご応募を頂き、誠にありがとうございました。1年にやや満たない期間での募集にも関わらず、各ターンとも多くの応募があり、最終的には1433作品の応募が集まりました。
創刊とともに創設した新人賞に多くの応募を頂けたことを嬉しく思いつつ、段階ごとに重視した要素を元に選考を進めさせていいただきました。結果、金賞『コートボニー教授の永続魔石』、銀賞『STAЯ[D]UST OCЁAN』、佳作として『俺のバイト先は悪の組織』、『もう恋なんてしたくない』の4作品を選出する結果となりました。
受賞には至らなかったものの、可能性を感じる作品は各ターンごとに存在し、編集部としても応募者の熱い想いに身が引き締まる思いでした。全体的な傾向としては現代学園作品もファンタジー作品も満遍なく応募を頂いており、その中から作品ならではの魅力的な要素を強く持ったものが選ばれていく結果となりました。受賞作は2014年12月より順次刊行の予定です。
『コートボニー教授の永続魔石』は独特の雰囲気がある異世界を上手く描いており、『STAЯ[D]UST OCЁAN』は王道のバトルとボーイミーツガールを読ませてくれました。『俺のバイト先は悪の組織』は策士タイプの主人公を始めとしたキャラクターたちに魅力があり、『もう恋なんてしたくない』はラブコメを否定しながらも高いポテンシャルを秘めている主人公に目が離せなくなります。
現在、オーバーラップ文庫では文庫大賞とWEB小説大賞の2種類の新人賞があり、それぞれ違うアプローチで新たな才能の発掘に取り組んでいます。文庫大賞では特に続刊を意識せず、文庫1冊に相当する文字数の中にどれだけの面白さを詰め込めるかという点を意識して、応募者の皆さんにしかできない物語を作ってほしいと思います。
第2回の選考も既に始まっていますが、引き続き皆様の応募を編集部一同楽しみにお待ちしています。
審査員講評
◆十文字青
小説は書けば書くほど上手になります。とはいえただ漫然と書くのではいけませんが、巧くなろう、巧くなりたいと思って書いていれば、技術は自然と向上するものです。もちろん技術も大切で、素人離れして上手に書けている小説はそれだけで目を引きます。もっとも、「それなりに書けている」だけの小説はほとんどの場合、読むに値しません。
あなたは何を書きたいのか。書きたいものがべつにないのなら、あなたは何が楽しいのか。読み手に何で楽しませたいのか。どんなふうに読み手を興奮させたいのか。あるいは、翻弄したいのか。「何か」がなければ、小説は単なる文の羅列にすぎません。不思議と、強い「何か」があって書かれたものとそうでないものとは見分けがつくものです。今回、新人賞の審査に初めて携わらせていただき、他の選考委員や編集部の方々とお話しさせていただく中で、そう確信しました。卓越した技術もなく、強い「何か」があるわけでもない小説は、出来不出来に関わらず、読んでいてつらいだけです。
『俺のバイト先は悪の組織』は「何か」はあるものの、この小説を書いた方にもまだはっきりと認識できておらず、もどかしい思いをしておられるのではないかという印象を受けました。鬱屈がうまく小説という形に昇華されることを望みます。
『コートボニー教授の永続魔石』は技術的に改善の余地はあれど、必要な中身はすでに備わっていて、楽しく読ませていただきました。改稿後、また、シリーズ二作目、三作目が楽しみです。
『STAЯ[D]UST OCЁAN』は率直に言って、もっとできるはずだ、という感想を抱きました。文章を綴る能力は充分にある方だと感じます。一つ思いきったことに取り組んで、さらに読み手を楽しませてください。
『もう恋なんてしたくない』を書かれた方はおそらく非常に器用なので、題材をおいしく料理する要点を学べば、すぐに楽しい小説を書いてしまいそうです。体裁を整えることよりも、娯楽としてのポイントを抑えることを重視してください。
僕は次回も選考委員を務めさせていただく予定となっています。技術は僕ごときでもいくらかは教えることができますが、誰にもうまく教えられないことがたぶん、もっとも大切です。是非あなたの中にだけある「何か」を見つけて、楽しい小説を書いて応募してみてください。
そこに「何か」があれば、きっと届くはずです。
◆橘ぱん
今回審査員として作品を読ませていただきました、橘ぱんです。
どの作品も足りない面、荒削りな面はありつつも最終選考に残るだけあって、中身がすっからかんというものは一つもなく、全て楽しく読ませていただきました。
オーバーラップ文庫大賞の第一回に相応しい作品が揃ったのではないかと、勝手に思っています。
もちろん各作品とも欠点というか、ここは直さないとという面はありました。
綺麗に組み上がってるお話ですが、ここが凄い! というポイントがなかったり、独自性はあるもののプロット組に難があったりです。
特に読み手を楽しませる視点が、全作品とも少し欠けていた気がします。
新人賞なんで当然ではあるのですが、改稿によって更に素晴らしいものになると判断しています。
個人的な感想なのですが、稚拙で欠点だらけだとしても、熱情のままに魅せたい読ませたいものを勢いで書いた時に出る迫力がある作品に出会えなかったのも、やや残念ではありました。
まぁこの辺りは、大賞の選考そのものの今後の課題かも知れません。
さて、最終選考作品の中でこれはという輝きとオリジナリティがあったのは、金賞となった『コートボニー教授の永続魔石』でした。
よくぞここまでファンタジーを書ききったなと、読後に拍手したほどです。魔法の国ザンスに近い作品に出会えるとは欠片も思ってなかっただけに、感動もひとしおでした。
やはり人の目を引く作品は、あまり人がやっていないことが大事なのだと思います。
最期になりますが、オーバーラップ文庫の歴史はまだ始まったばかりです。そして、大賞は今回が最初になります。外部からの集まった自分達ではなく、今回の第一回を受賞した皆様こそが、オーバーラップ文庫を作り上げていく作家となります。
そんな皆様のデビューの一助となれたことを、大変嬉しく思っています。
また、第二回第三回第四回とまだまだ歴史を作り上げていく段階ですので、自分の力でオーバーラップ文庫の色を決めてやる!といった気迫溢れる作品に期待しています。
エッチなのが少なかったのが、ちょっと寂しかったなぁ……。
◆錦織 博
SFあり、ラブコメディーありと多彩な作品が集まりました。
今回、最終選考に残った作品も、それぞれ違った着眼点、手法で書かれていて、とても楽しく読めました。
感想としては、みなさん独特の世界観をつくること、そしてそれを読者に伝える方法について苦心されている印象でした。
その作品世界のルール、用語など、私たちが暮らしている日常とのギャップや意外性に、読者は惹きこまれていくのだと思うのですが、それが独特であればあるほど、それを伝えていく手段には慎重になる必要があります。
交わされている言葉や用語が何を象徴しているのか、読者が理解できるようにするのか、あるいは解らないままにしておくのか、などなど。
少ない文字数のなかで、読者に世界を思い描いてもらい、いかに書かれていない部分を膨らましてもらうのかが腕の見せ所だと思います。
意識すべき点は、必要以上の「思い込み」とわずかばかりの「客観性」といったところでしょうか。たとえ、少々破綻していようとも、「こんな世界が好き」、「こんな世界があってほしい」という作者の想いを読者にぶつけていって欲しいですね。
それから、ジャンルに関わらず、作品中の登場人物が何を大事にしているのか、それぞれの価値観の違いなどを描くことが重要です。
とくに主人公が何を目的にしていて、何を許せないと考えているのかというところから、キャラクターは動き出していきます。
このあたりは特に、キャラクターの魅力に直結するところであり、作者の個性があらわれてくる部分でもあります。
そうはいっても、全体にどの作品もとても上手く書かれていると思いますし、纏まりも良く、レベルが高いのは本当に驚きです。
その分、欠点をなくそうとするあまりか、習作というか、練習作のような印象もありました。このあたりは応募作と考えると本当に難しいところだなと思うところなのですが、それを越えるパワフルな作品の登場を待望しています。
◆弓弦イズル
こんにちは、今回審査員を務めさせていただいた弓弦イズルです。
そうですね、今回初めて審査員というものに携わって、まあ、何人かの運命を狂わせるというかなりオモシロオカシイ……じゃないや、大事なポジションだと自負しております。
全体的には、荒削りだけどどれも特色が独立したレベルの高い争いだったと思います。
技術面で幾ばくかの差は感じましたが、そんなものは書き続けるうちにいくらでもついてくるので気にしなくていいです。なので、技術面はあんまり考慮していません。
しかし、それでも圧倒的に感じたのは「コートボニー教授の永続魔石」ですね。
最初に読んだとき、「これ、プロが名前変えて送ってきたんじゃねえの?」だったので。
読ませる力、読んでほしいという情熱はどの作品も甲乙つけがたかったのですが、それでも圧倒的な完成度を誇っていたのが「コートボニー」です。
「スターダスト・オーシャン」は、伸びしろを感じました。
未熟ながらも意欲的な作品に仕上がっているので、担当編集のサポート次第でこの先大きく化けると思っています。
「俺のバイト先は悪の組織」では、なによりキャラクターの心情面におけるほりさげがよかった。正義のヒロインの葛藤という王道が正しく描かれている。そんな印象を受けました。
「もう恋なんてしたくない」では、最初のとっつきこそ引っかかってしまうものの、そこさえ超えれば非常にスムーズに物語にはいれました。ヒロインのためにがんばる主人公というのは、やはり大きな武器だと思います。
総評としては、『王道かくあるべし』という作品があがってきたなという感じで、正直私の心に火をつけてくれやがりましたので、がんばって自分も新作を……じゃないや、原稿の続きを書きたいと思います。
それでは、次はプロ同士としてお会いしましょう!
受賞者コメント
★『コートボニー教授の永続魔石』/J.I.A
はじめまして、J.I.Aと言います。
今回、金賞という並々ならぬ大きな賞を頂いて、小心者の私はぷるぷる震えが止まりません。
担当の方からお電話を頂いたときや、選評に携わった先生方の身に余る評価を拝見したとき、慣れないプレッシャーに何度も泣きそうに吐きそうになりながら、皆さんのためにももっと面白い小説を届けたいという熱意を新たにしました。ありがとうございます。
また、いくつかの拙作に目を通して「おもしろい」と言ってくれた友人達、「これからも小説を書き続けなさい」と言って励ましてくださった方々。「お前たぶん主人公だよ」と言った先生。
小さな私がここまで来られたのは、そうした何気ないひと言ひと言がわたしを勇気づけてくださったお陰です。心から感謝しています。
私自身も楽しい物語の主人公になるために、これからも楽しい物語を書き続けたいと願っています。今後ともどうかよろしくお願いします。
★『STAЯ[D]UST OCЁAN』/GIRA
幼い時から、テレビの中のヒーローに憧れておりました。
敵をばっさばっさ薙ぎ倒していく姿は、少年心に何ともいえない熱をたぎらせ、将来は堂々と「ひーろーになる」と宣言するぐらい熱烈でした。具体的にいつまで燃えてたかと言うと、ヒーローショーで姉上に「あの中にオジサンが入ってるんだよ」と告げられて鎮火するまでです。
しかし、世の中は理不尽に残酷なことだけではありません。
今回、第一回という栄光ある賞を頂き、審査員の先生方と関係者の皆様には心より御礼を申し上げます。
この作品の原点は、きっとあの時、消えずに燃え残った私の中の熱……だと信じております。なので、この熱を絶やさず、目指すは「面白い物語」への昇華。未熟な私ですが、与えられたチャンスに慢心せず日々精進していく所存なので、どうかよろしくお願いします。
★『俺のバイト先は悪の組織』 /千輝紅葉
こんにちは千輝紅葉です。
この度何故か佳作を受賞してしまいました。意味がわかりません、未だに何故自分が受賞出来たのか良く分りません。
しかし、受賞しからにはプロという立場になるので、これからより面白い作品を作っていけるように努力していく所存です。
……なりますよね? 本当に自分の作品がそうなるんですよね?
とりあえず、私の作品を評価して頂いた人々に感謝と、本当に良いですのか? と言わせてもらいます。
ありがとうございます。
★『もう恋なんてしたくない 』/輝 待時
私はラブコメが好きです。なので、どストレートのラブコメを書きました。
受賞出来ました。こんなに嬉しいことは無いです。
選考委員の皆様、編集部の皆様、本当にありがとうございました。
少しでも多くの方に、おもしろい作品を届けられるよう日々精進して参ります。
折角頂戴したコメント欄なので、ラノベ作家としての抱負を申し上げさせて頂きたいと思います。
——史上最強のラブコメを、俺は書く!!