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金賞
- 記憶を失った悪女は、無理矢理結婚させた夫と離縁したい。
- 著者真白燈
- 《講評》
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傍若無人だったヒロインが記憶を失ったことをきっかけに、自分の欲のために傷つけ、無理矢理結婚させたヒーローから愛憎入り混じる執着心を向けられる本作。
ヒロインの記憶を失うまでの悪女っぷりと記憶を失った後の純粋な人格のギャップの対比が見事でした。
真っ当な倫理観を得たヒロインは過去の自分の行いに苦しむヒーローを解放しようとするのですが、ヒーローはヒロインへの復讐心と歪んだ愛情から離縁を拒否。すれ違う二人の関係はどんどん狂気的でいびつなものへと変わっていきます。
ヒロインのヒーローに対する「罪悪感」と「愛情」、ヒーローのヒロインに対する「憎悪」と「執着心」。相反する感情を抱え苦しむ二人の感情に、心を揺れ動かされながら夢中になって拝読いたしました。
人間の感情というものの複雑さ、そして繊細さを緻密に描いた“愛"について考えさせられる魅力的な物語でした。
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金賞
- 花園入りの娘たち
- 著者ななな
- 《講評》
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「大切な人を庇って死ぬ」という自分の未来を「知っている」公爵令嬢・アデリアナが、幼馴染の王太子・ルーファウスから甘やかなアプローチを受けることで、「周囲にいる大好きな人々と一緒に生きていきたい」と前向きに行動していく物語。
物語世界が非常に丁寧に、かつ柔らかく艶やかに描かれている点が魅力的な作品でした。
また、アデリアナとルーファウスのやり取りも可愛らしく、ずっと見ていたくなるほど二人の関係性が尊重と優しさに溢れたものである点もとても素晴らしいです。
とりわけ、ひとつひとつの仕草の繊細な描写や独自の世界観の構築については頭一つ抜けている印象で、地の文の魅せ方が素敵でした。
うっとりとしてしまうほど甘く美しいドラマチックな世界観が読み手の心をぐっと掴み、映画を観た時のような充足感を与えてくれる作品です。
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金賞
- グラディス隊長の結婚事情
- 著者純大豆
- 《講評》
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「契約から始まる恋」というジャンル内でも人気のテーマを扱った本作。
ヒーローとヒロインの関係性の変化が丁寧に紡がれており、言葉を重ね少しずつ惹かれていく姿が微笑ましく、応援したくなる物語となっていました。
そして、想いを通じ合わせた後、騎士であるヒーローがヒロインに対して自分の「帰る場所」であってほしいと誓いを捧げるシーンは、二人が積み上げてきた信頼を感じさせるだけでなく、大切な存在により人は弱くも強くもなるのだという繊細な感情が見事に表現されていたように思います。
また、情景描写も鮮やかで、読み進めるうちに舞台となるカルディナの街並みが読み手の中に広がっていき、物語に没入できました。
本編だけでも綺麗にまとまっていますが、「いつかくる別れ」に触れた番外編には切なさと美しさが詰まっており、作品の奥行き、作者の力量を感じました。ぜひ番外編まで含めて読まれることをオススメします。
読後は優しくあたたかい気持ちで満たされ、何度でも読み返したくなるそんな作品でした。
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銀賞
- ヴァルプルギスの夜が明けたら~迫害された魔女ですがひと目惚れの騎士様と一夜を共にしてからガチの執着愛で囲われています~
- 著者天城
- 《講評》
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魔女であるシャナが、一目惚れをした騎士・アズレトを『ヴァルプルギスの夜』という祭で誘惑し、一夜を共にすることから始まる執愛ラブファンタジーの本作。
ひとつひとつの細かな仕草や表情、感情の描写が秀逸で、思わず息を止めてしまうほど夢中になって拝読いたしました。
「魔女は子を成すために『ヴァルプルギスの夜』で男性を惑わし性交する。その二人の関係はその一夜だけ」というのが通例の世界。
シャナも当然、アズレトとはたった一夜だけの関係だと思っていましたが、何故かアズレトはその後も独占欲を発揮し続け、シャナに対して重く深く愛を乞うようになります。
猫のような可愛らしさがあるシャナの反応や、紳士に且つひたむきにシャナを求めるアズレトの姿等、キャラクター造形や関係性が非常に魅力的でした。
物語の柔らかくしっとりとした世界観や個性が光るキャラクターたちのやりとりに、読者の方々も魅了されること間違いなしです。
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奨励賞
- 聖人王太子がヤンデレ化して悪役令嬢の私に執着するなんて解釈違いなのですが!?
- 著者天草つづみ
- 《講評》
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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したヒロインが、推しカプである「王太子×聖女」のため奮闘するも、なぜか王太子から執着されてしまう本作。
「追うヒーロー、追われるヒロイン」の構図が大変魅力的で、あの手この手でヒロインを振り向かせようと努力するヒーローの健気さにキュンキュンし、ヒロインが振り向いてくれず闇落ちしてしまうヒーローにドキドキし……と、一度で二度おいしい作品でした。
特に、ひたむきなヒーローのタガが外れ執着心剥き出しの監禁モードに変わっていく心情の描き方が秀逸でした。
ヒロインが頑なにヒーローを受け入れないのは「原作のあるゲーム世界だから」という理由も大きいのですが、物語の終盤で他にも理由があったことが明かされます。
それを知った時、「実はヒーローの愛情がヒロインを救ったのかもしれない」と新たな本作の魅力に気づき、ただ面白いだけではない【物語】としての深みを感じました。
魅力的で愛が重いヒーローに一途に愛されたい。ドキドキしたい。という方におススメしたい作品です。
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奨励賞
- モブ魔法使いですが聖女の攻略対象(犬猿の仲)と秘密の恋人関係になりました。
- 著者なかむ楽
- 《講評》
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ヒロインが思わぬ事故で猫の姿になり、ヒーローに拾われるというユニークな展開から始まる本作。この設定を存分に活かし、「犬猿の仲」だった二人のすれ違いによる切なさやじれったさ、そして想いが通じ合ってからの「秘密の恋人」としてのドキドキ感が見事に描かれています。秘めた想いをうまく伝えられない不器用なヒーローと、そんな彼に振り回されながらも次第に自分の気持ちに気づいていくヒロインの姿は、読んでいてとても愛おしく感じられました。
さらに、二人を取り巻く個性豊かなキャラクターたちとの軽快なやり取りも魅力的で、思わずくすっと笑ってしまう場面から、共感して胸が締めつけられるような場面まで、心を大きく揺さぶられます。
また、物語全体を支える世界観にも奥行きがあり、特に終盤にかけて物語が一気に動いていく展開からは目が離せません。犬猿の仲だった二人の関係がすれ違いを経て甘く変化していく様子を堪能できるのはもちろん、ファンタジー作品としても完成度高く楽しめる素敵な一作でした。
総評
この度は、「第1回ロサージュノベルス大賞」へのたくさんのご応募、誠にありがとうございました。
ロサージュノベルスは4月に創刊したばかりのレーベルで、今回が初めての大賞開催でしたが、締切時点で計436作品ものご応募をいただきました。
艶っぽいラブシーンなどTL要素はもちろん、物語としての面白さも詰まった完成度の高い作品ばかりで、編集部一同、楽しく拝読しました。
そんな中、大賞こそ出ませんでしたが、キャラクターの執着という感情を突き詰め、人間のもつ愛憎を見事に表現した真白燈氏の『記憶を失った悪女は、無理矢理結婚させた夫と離縁したい。』、独自の世界観と緻密に練られた構成で魅了してくれたななな氏の『花園入りの娘たち』、心情描写・情景描写ともに丁寧で、心に沁みるあたたかさや柔らかさが印象的だった純大豆氏の『グラディス隊長の結婚事情』の3作品を金賞に選出しました。
銀賞には、天城氏の『ヴァルプルギスの夜が明けたら~迫害された魔女ですがひと目惚れの騎士様と一夜を共にしてからガチの執着愛で囲われています~』、奨励賞には天草つづみ氏の『聖人王太子がヤンデレ化して悪役令嬢の私に執着するなんて解釈違いなのですが!?』、なかむ楽氏の『モブ魔法使いですが聖女の攻略対象(犬猿の仲)と秘密の恋人関係になりました。』を選出しました。
どの作品もファンタジー要素とTL要素を巧みにかけあわせてあり、魅力溢れる作品となっていました。
今回は金賞3作、銀賞1作、奨励賞2作を選出し、充実の選考となりました。
受賞作品は順次刊行されていきます。楽しみにお待ちください。