奇襲

 領地改革推進室附属研究所。その存在が公になるや、領内どころか領外の学者・職人達からも奇異好奇その他諸々の視線を集めた施設は、紆余曲折がありすぎたよくわからないものである。
 誰もが耳を疑う、飛行する機械。王国史上初、それを実現させた新進気鋭の、なんだかすごそうな集団。そんな連中の本拠地である研究所が、元は囚人用の掘っ立て小屋であったなどと、誰が聞いてもよくわかるはずがない。
 知らぬ者は、なんでそうなった、と首を傾げる。
 知っている者は、なんでこうなった、と首を傾げる。
 仕掛けた張本人は、やってやりました、と胸を張っている。
 張本人を知る者達は、まあアッシュだから、とあきらめている。
 そういうヘンテコな研究所なので、掘っ立て小屋の原形というものはほとんど残っていない。なんたって飛行する機械を作り出すような連中を芯に、それに興味を持った連中が巻きついた金棒だ。ぶんぶん振り回せば掘っ立て小屋なんて簡単に吹き飛ぶ。
 住まいが吹き飛んだままだと困るので、飛行する機械を作り出せる技術と情熱を活かして、立て直すことになった。掘っ立て小屋が立派な木造建築になり、新規の人工石材を使った石造り建築になり、清潔さと剛健さを高水準で備えた新築が、現在の研究所だ。
 途中、司法を握りしめる偉い人が、囚人用の建物はどこ行ったっけ、と新しい囚人の収容先を探す羽目になったのも無理はない。囚人小屋が研究所に化けているのだ。
 そんな原形のない研究所に、最も古くから残っているモノはなにかと言うと――
「今日の世話当番はベルゴか」
 俺(ヘルメス)の視線の先の厳ついおっさん――が、自作の如雨露を傾ける先、花壇である。
 この研究所の副所長なんかしておいて、自分で言うのもなんだけど、意外だろう。水車に風車、炉に窯、各種工作機械まで最新鋭がそろったこの場所で、最古参の設備が花壇である。ちなみに、これは純粋なる観賞用で、薬草や毒草の栽培は別の場所で行われている。ますます意外だよな。
 で、その花壇の世話をしているのが、元囚人筆頭ベルゴである。
「相変わらず似合わねえなぁ」
「うるせえ! 花の世話に似合う似合わねえがあるか!」
「少なくとも、怒鳴りながら綺麗な花を世話するのは似合わねえだろ」
 言い返したらベルゴが黙った。勝ったな。
 めっちゃ不満そうなしかめっ面をしたおっさんが、それでも手を止めずに花壇の花に水をやり、虫を見つけたのか屈んで、農業部門が試作した農薬を慎重に使用し始める。
 それを見ているだけというのもなんなので、ベルゴが農薬の実験をしている間に、如雨露を掴んで水やりを代わってやる。
「ベルゴ、ここにも虫がいた。その農薬こっちにもやってくれ」
「なんだと、今年は虫が多いな」
 ベルゴの厳つい顔が、親の仇を見つけたような凶悪さを帯びる。この研究所だと、最上級にあたる迫力の顔を見ながら、虫から繋がる研究所のあれこれに考えが及ぶ。
「試験畑の方にも虫が多いかもしれねえな。後で話しておくか。市内にも多く出ているようなら、農薬を作っている奴等の実験場所が増やせるかもしれねえし」
「お、流石は副所長殿、考えが立派だねえ」
 言葉面は褒めているのに、ニヤついた顔がバカしているぞ。睨み返すと、いやいやと手を振られた。
「マジで褒めてるんだって。お前もなんだかんだで、副所長なんつー肩書が身について来たなと思ってよ」
「だったらそのニヤついた顔はなんだよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いはひでえだろ。こういう顔なんだよ」
 ベルゴ達とはもう付き合いが長い。会話が始まれば止まることなく罵り合いが続く。気を張らない普通の会話、いつもの日常が、花壇の前でぽつぽつと芽吹く。
 そこに、小気味いい足音が近寄って来て、立ち止まった。
「相変わらず仲が良いわね、あなた達」
 どこが、と咄嗟に言い返した言葉は、ベルゴと二人でそろっていて、声の主、レイナを笑わせた。
「まあ、一緒に仕事をする間柄で、仲が良いのは悪いことではないわね。ただし、やりすぎなければの話だけれど」
 そう告げるレイナの目は笑っていなかったので、ベルゴと二人そろって姿勢を正した。この素早さ、これこそが研究所最古参の反応である。
「もちろん、気をつけます。なあ、ヘルメス副所長」
「おうとも。調子乗って計画を変えないよう気をつけます、レイナ所長」
 ならよろしい、と応じたレイナの眼差しは、半信半疑――から、少し疑惑寄りだった。九割くらいの疑惑量に見えるから、少しだな!
「いつも言っているはずなんだけど……本当、仲と返事だけは良いのよね」
 少しばかり肩を落としたレイナが、これ以上は無駄に疲れるだけと、俺達の必死の愛想笑いから花壇に視線を移す。
「それにしても、いつまでこの花壇を続けるつもりなの?」
 呟く表情には呆れが濃く、声は少し上擦っている。
 いつまで――その問いに、俺とベルゴは互いの顔を見合わせる。見飽きるほど付き合いの長い、互いの顔だ。無言の確認も、鳥の羽ばたきほどの一瞬で済んだ。
「多分、ずっと」
 使う言葉以上の確信をこめた返事に、ベルゴも違いないと力強く頷いて、レイナを呆れさせた。
「あなた達は、本当に変なところにこだわるわよね」
 レイナが艶やかな黒髪をかきあげると、その下に隠れていた耳は、赤く染まっていた。
 花壇に咲く色とりどりのガーベラのうち、赤いガーベラにも負けない色だった。

 そもそも、この花壇の始まりはレイナである。
 まだ、ここが囚人用の掘っ立て小屋だった頃、レイナにとってここはちょっとした異界だったはずだ。
 執政館に務める侍女を母に持ち、折り目正しく礼儀を修めた年若い女性。それと対峙したのが、職人として腕前以外に求められるものが極端に少なかった野郎ども、それもほとんどが犯罪経験者という、がさつの最高品質みたいな連中である。
 言葉遣いから生活習慣まで、まるで違う組み合わせだ。付き合い始めた頃は、俺も腱動力飛行機に夢中だったせいで、レイナがその環境をどう思うかなんて気にもしなかった。
 今でも、当時のレイナがなにを思い、どれほど苦労して俺達に付き合ってくれていたのか、確かなことはわからない。
 ただ、ある時、レイナが花を持って来た。色とりどりの花を、一束。
『なんだそれ? 食えるやつ?』
 そう聞いた無神経なバカがいた。名前にヘとルとメとスの字がつくバカだった気がするが、記憶が曖昧ではっきりと思い出せない。その発言の直後に、ベルゴ達がそいつの頭を寄ってたかって殴ったせいだろう。
 女が花を持って来たら、どんな口下手でも「キレイ」と一言褒めてやるのだという説教の部分は、頭が痛むほどよく覚えている。本当かどうか知らないが、そういうものらしい。ベルゴ達め、がさつの最高品質のくせに、なぜかそういうところに細かい。
 ベルゴ達のせいで記憶が怪しいところはあるが、それでも、その時のことははっきりと覚えている。

 せっかくの花束を「食い物じゃないのか」とケチをつけられたレイナは、日頃は引き締めた印象の表情を崩し、苦笑を浮かべて言い返した。
「あなた達、日常の彩りがなさすぎるのよ。作っているモノの美しさを語るのだから、そういう感性が鈍いわけではないのでしょう?」
 そう言われては、職人一同、頷かざるを得ない。腱動力飛行機のシンプルな美しさについて、レイナに熱く語ったこともある面々だ。ここで、「そんなものどうでも良い」などと言った日には、自分の感性が鈍いと言ってしまうようなものだ。
「それなら、日常も少しだけこだわって欲しいわね。なにも絵画みたいな美術品を飾る必要はないけれど、野辺の花でも良いから、お気に入りの色を飾るくらいのこだわりはあるべきと思わない?」
 ぐうの音も出ない野郎どもに、レイナはちょっとだけ得意そうな足取りで部屋の中を進む。水回りの物を置いてある場所まで行き、あっちを見てこっちを見て……段々と焦りだした。
 最初はゆったりとしていたレイナの動きが、あたふたと大きくなり始める。その原因を察したらしいベルゴとアムが、こそこそと話す。
「やべえ。花瓶だなんて優雅な物は、うちにはねえよな」
「あるわけねえでしょ……。や、作れって言われりゃ、モディがいくらでも作るけども。なんなら、俺も木で作れるけども」
「作れる奴がいたって、今に間に合わなきゃどうしようもねえ」
 どうすんだ、あれ。どうしよう。その後のこそこそ話は、そんな台詞ばかりが繰り返されている。
 つまり、まあ、なんだ。レイナの奴、花を持って来たのはいいが、それを置いておく花瓶のことがさっぱり抜けていたらしい。そりゃ、レイナの家なら、探せば花瓶くらい余っているだろうからな。それをこの掘っ立て小屋に期待したのは、うっかりってなもんだが。
 なにが起きているのか俺が理解した頃、慌ただしくなっていたレイナの動きはさらに変化して、徐々にぎこちなく鈍くなっていく。ここでは花瓶なんて見つからない、ということが、わかって来たようだ。
「しょうがねえな」
 俺とベルゴ達は職人仲間だが、俺とレイナも軍子会同期だ。ベルゴ達とはまたちょっと違う相手ではあるが、助け合う相手としてレイナと接している。
 花瓶代わりになる物を思いついた俺は、頭をかきながら食べ物を置いてある場所に行く。そこにある良い感じの小壺をいくつか手に取って比べると、予想通り、空の物があった。
「おい、レイナ。他に良いのがないなら、これを使えよ」
 自信たっぷりに俺が差し出したのは、エールの入っていた酒壺だった。これなら水も入るし安定感もある、花を挿しても問題はない。完璧だろう。
 まあ、脇の方でベルゴ達が息を呑んで、両手で顔を覆ったり、天井をあおいだり、顔を背けたりしていたことから、はたからどう見えたかは明らかだろう。
 俺も、後から振り返れば、真顔になってしまうような物を選んだ自覚がある。でも、他に花瓶代わりになるような物、いくら記憶を掘り返してもあそこにはなかったよ。
 で、酒壺を差し出されたレイナは、自分の花を見て、俺の顔を見て、それから周りを見て、色々迷ってから……ようやく、あきらめがついたんだろう、酒壺を受け取った。
「あ、ありがとう……。ええと、中は……あ、ちゃんと洗ってあるのね」
「ここの連中、結構な綺麗好きだから、その辺は大丈夫だろ。んで、後は水か? 花瓶だもんな、必要だろ」
「んん、そうね。少し、水瓶のものを分けてもらうけど、いいかしら?」
「ほらよ」
 レイナはベルゴ達に声をかけていたが、俺は気にせず水瓶の柄杓を使って、水を壺に注ぐ。
「あっ、こら! ちゃんと確認してからにしなさいよ、まったく……」
「これくらい平気だろ。足りなくなったら後で足せばいいんだよ」
 なあ、と振り返った先のベルゴ達は、もう知らん、って感じで全員が顔をそらしていた。
「なんだ、あいつら……。まあ、いいや。それで、これなんて花なんだ? 色は違うが、同じやつだよな」
「ええ、これはガーベラよ。赤やピンク、白に黄色と、たくさんの色違いがある花で……ヘルメスが好きな色はある?」
 問いかけに、そうだな、と花を眺める。俺はいつも、空ばかりを見上げていたから、地面に咲く花に注目するなんて、初めてかもしれない。
 見慣れないものの良し悪しというのは、かなり難しい。迷うせいで、目があちこちへと泳いで、レイナが耳元の黒髪をかきあげている仕草が目に入る。
 花瓶を探していた時の焦りの名残か、覗いた耳は、真っ赤だった。
「赤い……」
「赤いガーベラが好き?」
 会話がすれ違った。いや、と言い直すより先に、レイナが間近で笑う。
「うん、鍛冶場の火を連想するからかしら。ぴったりだと思うわ」
「ん、まあ、そうかもな。そうだな」
 なんかもう、その顔を見たらそれでいい気がして来た。元々、花の好き嫌いなんてなかったし、そういうことにしておくか。
 俺が頷くと、レイナは機嫌よさそうに酒壺に花を挿して、作業用のテーブルに飾る。
「これでよし。……でも、テーブル一杯を使う作業の時は邪魔になりそうね」
「そうだな。じゃ――だっ!?」
 レイナの言う通り、邪魔だと頷こうとしたら、頭に木材の端切れが直撃した。見れば、ぶん投げた姿勢のアムが、手を上げただけだってフリをする。
「あ、そいじゃ、花置き台を作っておきます! 台をどこに置くかは……それを決めてからじゃないと作れないけど、うん、それで解決だ!」
 アムの誤魔化しを後押しする気なのか、他の奴等も騒ぎ出す。
「いやー、花があるってのは良いもんだな! なあ、おい!」
「まったくだ! こういうゆとりっつーか、遊び心っつーか……やっぱ忘れちゃいけねえ大事なことだったよな」
「そうだな。今のオレ達はちゃんとした職人仕事をしてるんだ。花を綺麗と思う気持ちを取り戻さないといかん」
「こういう気遣いは俺等にゃできねえよな。流石は姐さんだぜ」
 なんだよお前等、そんなに花が好きだったのか。普段は酒と飯と仕事の話しかしないくせに。俺が気味の悪さを感じるほど、花を絶賛する野郎どもだったが、レイナにとってはくすりと笑うような反応だったらしい。
「そう? よかったわ、皆も気に入ってくれて」
 普段から姿勢の良いレイナだが、この時はちょっとだけ胸を張るように見えた。
「昔の人は、綺麗な花に気持ちを重ねて、花言葉というものを作っていたそうよ。それは今にもいくらか伝わっていて、社交で使われる教養の一つなんだけど」
 自慢げなレイナの口元は、何気なく持って来た花束が、考え抜かれたものであったことを説明している。
「ガーベラの花言葉は、『希望』と『前進』――あなた達にぴったりよね。色がバラバラなのに同じところも、本当、似合うと思うわ」
 なるほど、ぴったりだな。それを聞いた俺は、深く考えるまでもなく、そう感じた。
 希望――昔、それが在ったことさえ信じてくれない人が多い、飛行機という夢を造ろうとすれば、それは必須の素材だ。
 前進――未だに道程がよくわかっていない遠い夢を目指すなら、それは常に握りしめていなければならない工具だ。
 ぴったりだな。他の連中にとってもぴったりかどうかは、正直よくわからないけど……でもまあ、農業だ工業だとアッシュの無茶振りに巻きこまれるベルゴ達にも、希望と前進は必要だろう。あれは、俺より途方もない夢を追う、俺以上の夢追い人なんだから。
 とにかく、レイナの選んだガーベラは、俺にはぴったりの花だ。
 そう思えば、作業テーブルに飾られた花に、邪魔だという言葉も、今は出て来ない。
「それにしても……」
 全員が花を見つめる中、レイナが、ぽつりと零した。
「この酒壺はないわね……。せっかく用意した花が台無しだわ」
 多分、色々と考え抜いた一幕で、最後の最後で失敗をしたことを反省するレイナは、ちょっとだけシュンとしていた。
「や、でも、結構これ悪くないよな?」
 この酒壺は中々ガーベラの花に似合う。ヘとルとメとスの字が名前につく奴が、本気の感じでそう口にしたら、ベルゴ達の拳骨が再び襲いかかった。

 記憶が一部曖昧になっているが……始まりはそんな感じ。
 あのガーベラが枯れた後も、レイナは色々な花を飾ったし、なんなら野郎どももその辺で咲いていた花を摘んで飾った。俺も何度かするうち、花も中々悪くない、寄って来た虫の飛び方を観察することができる。そう思うようになったくらいだ。
 それでも、俺達に一番しっくり来るのはやっぱりガーベラだということで、この花壇が掘っ立て小屋の前に作られた。それは掘っ立て小屋が建て替えられ、施設が増えても変わらず、あの一束の花は今もここで希望と前進を咲かせている。
 そして、それは屋内の方でも継続中だ。あれからモディが何度も花瓶を作り、本人曰く傑作が所長室のテーブルでいつも花を待ちわびている。
「所長室の花、そろそろ替え時だろ。後で摘んで持ってく」
 俺が言うと、レイナは口元を綻ばせてから、咳払いをした。
「ん、ありがとう。……また黄色のガーベラ?」
 所長室の花はその時々だが、俺が用意する時は決まって黄色のガーベラにしている。別に良いだろ、と見返すと、構わないわよ、と見つめ返される。
「ただ、ヘルメスは、赤のガーベラが好きだったんじゃないの?」
「そうだよ」
 あの時は、好きでもなんでもなかった赤のガーベラは、今では確かに好きな花だと言える。これと言った理由もないが、ひょっとすると、あの時に見た赤い耳を思い出すせいかもしれない。
「でも、これは所長室に飾るやつだからな。レイナに似合う花の方が良いだろ」
「ん……まあ、そうね、そうかもしれないわね? ええと、わたしに似合うかしら? 黄色のガーベラ?」
 妙にそわそわとしながら、レイナが髪をいじりだす。あれ、ひょっとして黄色のガーベラは嫌だったんだろうか。いや、そんなはずは……。一度、ちゃんと確かめたはずだ。こんな大事なこと忘れるはずがない……と思う。
「この色は嫌いじゃないって、前に言ってたよな?」
「え? ええ。ええ、ええ、言ったわよ。言った言った。嫌いじゃないわ?」
「なんだ。じゃあ、いいだろ」
 ホッとした。これが記憶違いだったら、いよいよベルゴ達の拳骨のせいだ。殴り返してやらなくちゃいけないところだった。まあ、もう何度も殴り返しているが。
「もう一度聞くけど……ヘルメスは、わたしに黄色のガーベラが似合うと思っているから、これなのね?」
「俺の感性だと、そうだな」
 俺も、その花をレイナに贈るようになる前に、ちょっとだけ調べた。
 ガーベラの花言葉は、『希望』と『前進』。だが、色とりどりのガーベラは、その色ごとに別の花言葉もあった。
 黄色のガーベラの花言葉は、『やさしさ』――この面倒臭い研究所の面倒を見て、世話を焼いて、きっちり結果を出させるレイナにぴったりだ。
「そ、そう。わたしも、ヘルメスには赤のガーベラが似合うと思うわ」
「ああ、鍛冶場の火の色だって言ってたよな」
 まあそうね、と答えたレイナの声は、少し上擦っていたし、早口だった。なにか違うことを言おうとしている時の口調だった。
「だから、所長室には、赤も一輪だけ、交ぜておいてくれる?」
「うん。まあ、それは構わないが……それだけ?」
 他になにか言いたいことがありそうだと思ったが――見つめると、それだけよ、と答えたレイナは、その黒髪をかき上げた。
 その耳は、あのガーベラのように赤かった。