網元の日誌

荒野に天使遣わさるる。
城より歩み出て、騎士に跨って町へと来たる。
顔つき可憐にて、尋常の人の身でない事一目瞭然也。
鈴を鳴らすかの如き美しき声に誘われ、家々から人々出ずる。
町中の者騎士たちにつき従ひ、大きな列となる。
天使様がそのまま海へ入られれば、十中十、皆がその後を追った筈である。
途中、我らの事をご覧なった天使様は仄かに光られ、従者の声大きく響く。
寄らば斬ると言われども、戻るもの一人もおらず。
天使様、曇りなき眼にて町を見、天を見、海を見、地を見て城へと帰らるる。
老人に拝み入る者あり、若人に感じ入る者あり、悪人に改心する者あり。
翌朝常なきほどに海静まりて漁捗る、其は神の御使いの証左である。