とある観光客が見た黄金

 突然だが私は田舎が好きだ。
 簡単に言うと都心や都会ではない場所に魅力を感じる人間ということだ。大体の場合は週末の休みを使って1泊2日でそういった場所を訪れている。
 その日もそうだった。九州の羽賀という地方に行ってみようと企画して何事も無く現地に着いた、そんな午後過ぎの事だ。
 目の前を馬が横切った。
 詳しく種類までは分からないが恐らくサラブレッド。
 仔馬と呼ぶほど小さくて額に白い丸のある栗毛の馬だ。
 いや、馬が目の前を過ぎったからなんだと思うかもしれないが、それが街灯の間隔もだいぶ広い寂れた道路の真ん中だったとしたらどうだろう。
 私の感じた驚きを共有していただけるのではないだろうか。
 その馬は通りすがった私の顔をじーっと見つめて、何か音で表現し難い鳴き声を発して何事も無く道路脇の階段を下っていった。
 私はそれを「馬って階段下りられるんだな」と思いながらも見送った。
 仔馬の姿が完全に視界から消えてようやくこの珍事に私の脳が追いついてきて「これは面白い旅の記録が出来るぞ」とその馬の後を追った。
 階段を降りた仔馬は砂浜を真っ直ぐ闊歩して、あろうことかそのまま海に入ってしまった。
 慌てたのは私だ。馬の入水自殺を目撃してしまったのかとパニックになりかけたが、そのまま波間を縫うように左右する姿を見て、どうやらあの馬は泳ぎにきていたのだと理解することが出来た。
 田舎ってすごい。
 馬がその辺歩いていて、しかも泳ぐのだ。
 後年、額の白丸が特徴的だったその仔馬の成長した姿と雑誌の表紙で再会してとても驚くことになるのだが、それはまた別の話。