オーバーラップ文庫4周年記念 弓弦イズル先生書き下ろしSS!IS<インフィニット・ストラトス>その歌声は恋のよう

「〜♪」
 お風呂上がり、火照った体を冷ましながら、シャルロットは一年生寮の廊下を歩いていた。
 ルームメイトのラウラは、最近ご執心のマッサージチェアに横たわっているので、ひとり先に部屋に帰ることになったのだ。
「あー、えっと、シャル。今、ちょっといいか?」
 キョロキョロと周りを気にしてあらわれたのは、なんと一夏だった。
「え!? ど、どうしたの?」
 なんとなく湯上がりの肌を見られるのが恥ずかしくて、シャルはついつい自分の両手を背中に隠してしまう。
 そうすることで逆に胸が強調されることも気がつかず。
「い、いや! その、えーと……」
 妙に歯切れの悪い一夏に、シャルロットは不思議に思う。
 どうしたのかと顔をのぞき込むと、それとなく視線をそらされてしまった。
(一夏ったら、どうしたんだろ?)
 そんな素朴な疑問を感じていると、いきなり一夏が紙切れをシャルロットの前に取り出して見せた。
「こ、これ!」
 それは遊園地のペアチケットだった。
 最近できたテーマパークに対抗して大改装を行った、現在絶賛CM放送中の遊園地のである。
「? くれるの?」
「えっ!? あ、いや、その……お、俺と一緒に行かないか!」
 いきなりのデートのお誘いに、普段の一夏の唐変木が感染していたシャルロットは面食らうのだった。
「ふえっ!?」
「あ、いや! 嫌なら別に……ただその、約束だったから……」
「約束……?」
 首をかしげるシャルロット。
 そんなことを言っただろうかと考えていると、思い当たる節がひとつだけあった。
「あ! もしかして、電脳空間のときの……?」
「お、おう」
 メイド姿の恥ずかしい記憶を思い出し、シャルロットも赤面する。
 お詫びに遊園地に行きたいと言ったのを、一夏は律儀に守ってくれるらしい。
 その真摯な姿に、シャルロットの胸はきゅんとときめいた。
「も、もちろんいくよ! ふたりきり! ふたりきりだよね!?」
「お、おう……」
 がしっと手を握られて、最初からどこか恥ずかしそうだった一夏は耳まで赤くなってしまう。
 そんなうぶな反応も嬉しくて、シャルロットはますますときめいた。
「日時はいつかな!?」
「つ、次の日曜っ」
「了解っ。じゃあ、学園の近くの公園で待ち合わせだねっ!」
「お、おうっ!」
 こうして決まった遊園地デートに、シャルロットは頬を緩ませる。
 この秘密を誰にもばれないようにしなければと、心に誓いながら。

「はぁぁぁぁ〜……」
 今日、何度目かになる幸せのため息をつきながら、シャルロットは自分の身だしなみを確認する。
 秋を意識した落ち着いたベージュのワンピース、白い薄手のカーディガン、そして同じく白の幅広帽子。
 幾分穏やかになったとはいえ、日差しはまだ夏の名残を残している。
 その日差しに気をとられていると、突然の風がシャルロットの帽子をさらった。
「あっ!」
 いたずらな風はあっという間に帽子をシャルロットの手の届かない木の枝まで運んでしまう。
 どうしよう……と落ち込んでいると、シャルロットの隣で人影がジャンプした。
「よっ、と」
 一夏だった。
 木の枝から帽子を取り返し、シャルロットの頭に乗せる。
「待たせちゃったか?」
 その笑顔があまりにもまぶしくて、シャルロットは瞬間的に顔を赤らめてうつむいた。
「だ、大丈夫っ。全然っ、待ってなんてないからっ!」
 今度は風に飛ばされないようにと帽子を深くかぶるシャルロット。
 しかし、本音のところでは赤くなった顔を見られたくないからだった。
(わ、わ、王子様みたい……!)
 登場の仕方から振る舞いまで、シャルロットの目にはそう映った。
 一夏の服装というと、珍しく異性を意識してのチョイスか、気取らない程度に格好のついたジャケットとジーンズを着用している。
 その姿もまた、シャルロットには新鮮に感じられてうれしかった。
(ぼ、ぼくのために服を選んだんだよね……)
 うれしい。
 素直にうれしい。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「う、うんっ!」
 右手を自然と握られ、シャルロットの心臓は飛び上がる。
 左手に持ったバスケット、それをうっかり落としてしまわないようにとシャルロットは手に力を込めるのだった。

「さすが日曜日、混んでるな」
 遊園地の開園時間ジャストに到着したのに、ゲートはすでに長蛇の列だった。
「そ、そうだねっ! はぐれないようにしないとね!」
 そう言って、さりげなくシャルロットはつないだままの右手をきゅっと握りしめる。
(こ、これくらいは大丈夫だよね? 許されるよね? 特権だよね?)
 それにしても、心臓の鼓動がずっと早鐘を打ち続けている。
 その音が一夏に聞こえてしまわないか、そんな心配をしてしまうほどに。
「なあ、シャルロット」
 家族連れやカップルたちであふれる列に並んですぐに、一夏が声をかけてきた。
 一度目はちらっと横目で見てから、二度目はしっかりとシャルロットを見つめて。
「その服、似合ってるぞ」
「え……ええっ!? ほ、ほんとっ!?」
 東方不敗……もとい、唐変木&蒙昧の一夏から出た言葉とは思えない。
 だからこそ、シャルロットはつい欲張ってしまう。
「か、かわいい……かな?」
 訊いてから、顔がかーっと赤くなる。
 言わなきゃよかった! と思っていると、一夏も照れくさそうに答えた。
「あ、ああ。その、かわいいよ」
 その言葉だけで、シャルロットは天にも昇る気持ちになる。
 きっと前世で徳を積んだに違いない、そうとしか思えない。こんな幸せ、自分に訪れるはずがない。
「お、やっと入れそうだ」
「あっ、うん! ど、どこから回ろうか!?」
「そりゃあ決まってるだろ」
 にっこり、一夏が微笑む。
「日本最大級のジェットコースター、オロチ降ろし!」
 びしっと親指を立てる一夏だったが、シャルロットの顔は青ざめていく。
「え、あの、え? い、いきなりコースター系はちょっと……」
「何言ってるんだよ! 開幕ダッシュ決めないと、二時間待ちコースだぞ?」
 ※遊園地では走らないで下さい。従業員からのお願いです。
「ほら、行くぞ! シャルロット!」
「わ、わあ!?」
 強引に手を引かれ、目指すはジェットコースター。
 しかしそれはまるで映画『パリの休日』を思わせて、シャルロットの胸はまたときめくのだった。

「はぁ……はぁ……」
 がっつりコースター三種盛りを食らわせられて、シャルロットは肩で息をしていた。
「いやその、悪い。俺も楽しみにしてたから、ついつい……」
 楽しみにしていた、という言葉を最大限都合よく解釈するシャルロットは、ガバッと顔を上げた。
(そ、それってぼくとのデートを楽しみにしていてくれたってことだよね!?)
 やったぁと、心の中でガッツポーズ。
「平気っ! 全然平気っ! 大丈夫! うん!」
 シャルロットがずずいっと迫ってきたので、一夏はつい照れてしまう。
 そんなやりとりも微笑ましい。
「それにしても喉が渇いたな。なんか自販機で買ってくるよ。シャルはなにがいい?」
「あ! それなら――」
 待ってましたとばかりにシャルロットが手に持っていたバスケットを差し出す。
「ちゃんと用意してあるんだ♪」
「おお……女子力高いな」
 なんだか微妙な褒め言葉だったが、とりあえずは置いておく。
 休憩コーナーのテーブルに向かい合って座ると、シャルロットはバスケットの中身を広げた。
「ミルクティーとマカロン、あとはお昼ごはんにマフィン。全部手作りだよ!」
「おお! 女子力高いな!!」
 一夏はどうも最近覚えた褒め言葉(?)を使いたくて仕方の無いようだった。
 ともあれ、シャルロットの手作りは日夜勉強の甲斐あってなんでもおいしいのだから、いやでも一夏の気分が盛り上がってしまう。
 テーブルの上にクロスを敷くのも忘れない。
 これがフランス女子の実力。
「さあどうぞ」
 ホットのミルクティーをポットからコップ蓋に注いで、一夏に手渡す。
 いい茶葉を使っているのだろうか、甘く優しい香りが漂った。
「サンキュ。じゃあ、いただきます」
 一夏がミルクティーを口にしている間に、さりげなくマカロンも広げる。
 フランス女子は抜け目がないのだ。
「ん! うまい!」
 一夏がミルクティーを飲んで喜びの声をあげる。
 アールグレイがベースのそれは絶妙な牛乳配分で、香りも味も最高だった。
 一口飲めばくどくない甘みと香りが花咲くように広がる。
 それがあまりにおいしくて、ついつい一夏はマカロンに手を付ける前に飲み干してしまった。
「ふふ。おかわりは?」
「も、もらおうかな」
ミルクティーを注ぎ終え、マカロンをひとつ手に取るシャルロット。
「ねえ、一夏」
「ん?」
 今度はゆっくりとミルクティーを味わっていた一夏が、「?」顔をする。
「はい、あーん」
 シャルロットが身を乗り出し、一夏の口元にマカロンを運ぶ。
 いつもの一夏ならぱくりといけるところだが、場所は日曜の遊園地。周りの視線の痛いこと痛いこと。
「い、いいよ。自分で食べるって」
「ふふ、だーめ。このマカロンは自分で食べちゃダメなルールがついてるの」
「斬新すぎる!?」
 ウインクをするフランス女子に勝てる日本男児は果たしてどれほどいるのだろうか。
 一夏は恥ずかしいのを極力我慢して、口を控えめに開けた。
「たんと召し上がれ♪」
 マカロン独特のサクッとした食感がまず伝わり、そのあとで口いっぱいに甘いホイップクリームが広がる。
「これ、もしかしてマロンクリームなのか?」
「さすが一夏! えっとね、こっちのはココアでしょ、チョコでしょ、オレンジでしょ、それに……わさび!」
「わさびぃ!?」
 あまりにも意外すぎる緑色のマカロン、その存在におののいていると、シャルロットが吹き出した。
「ぷっ……あははっ。うそだよ、本当は抹茶。ね、食べさせて?」
 シャルロットが笑顔で甘えてくる。
 周囲の視線はなおも強く、嫉妬、羨望、爆散希望、死への渇望など様々だ。
 遊園地の一角でここまでのカオスが生まれているなど、一夏たち以外には知るまい。
「うう……」
 一夏はなかなか抹茶マカロンに手が伸びない。
「い・ち・か、は・や・く♪」
 目を閉じて、口を開けて、かわいさ炸裂のシャルロット。
 そして周囲からの視線。
 もう一夏に逃げ場はないのだった。
「は、はい、あーん……」
 ぱくっ。
「ん〜〜〜〜〜♪ おいしいなあ、ああ、おいしい。おいしいなあ!」
 大喜びしているシャルロットを見ていると、一夏もなんだか毒気を抜かれてしまった。
 脱力して、ふと吹き出してしまう。
「ふふっ、なんだよシャル。自分で作ったやつだろ?」
「そうだけど、一夏に食べさせてもらうと幸せの味が一億倍になるのっ」
 端から見ても、間近で見ても、イチャイチャカップルにしか見えない。
「男は爆発しろ!」と思った遊園地マスター・田中光太郎(三六歳)は後にそう語った。

「さて、つぎはどうする?」
 休憩を終えて、一夏はシャルロットと並んで歩き出す。
 改めてシャルロットの希望で、手は繋いだままだ。
「あっ!」
 ふと、シャルロットが遊園地の一角に視線をやる。
『クラシックコーナー』と書かれたそこには、百円で一〇分動く、昔ながらの四足歩行パンダが鎮座していた。
「なにあれ!? ぼく、乗ってみたい!」
「いいっ!? いや、あれは子供向けの――」
「いいのっ! 乗ってみたいのっ!」
 駄々っ子シャルロットに負けて、一夏は財布から百円玉を一枚取り出す。
「これって乗馬の要領でいいのかな? よいしょっ、と」
 ふわりとシャルロットが美脚を舞わせてパンダに乗り込む。
 スカートの間からわずかに見えた下着は、両端をひもで結ぶタイプの白パンツだった。
「ごほんごほんっ」
 ついつい見えた下着への照れをごまかすために、一夏は咳払いをする。
 そうこうしていると、きょとんとしたシャルロットが恐ろしいことを口にした。
「ほら、一夏も乗ろうよ。そっちのキリンさん♪」
「う、うそだろ、おい……」
「だって、ひとりで遊んでたら恥ずかしいじゃない」
「ふたりで遊んでも恥ずかしいぞ!」
「もう! そんなわがまま言わないの!」
 どっちがだよ! と思った一夏だったが、とにかく今のシャルロットには言葉が届かない。
 諦めて、キリンに颯爽と乗り込んだ。
「げっ!? こっち二百円じゃねえか……」
 なぜなのか。それはだれにもわからない。
「それじゃ、レーススタートだねっ」
 シャルロットはなにか根本的な勘違いをしている。
「もう好きにしてくれ……」
 それぞれに硬貨を投入すると、素敵な素敵なミュージックが流れ始める。
 そして、のろのろと前進をはじめるパンダとキリン。
「え、えっと、これって……」
 シャルロットが今になって恥ずかしがる。
「だから、子供向けって言っただろ……」
 しかも音楽がやたら大きなものだから、目立って仕方が無い。
 高校生のカップルが子供向けの遊具で遊んでいるという光景は、早速めざとい子供に見つかった。
「あのねーちゃんたち、あんなので遊んでるぞ!」
「いい年してはずかしくないのかなあ!」
 男の子の大きな声に、シャルロットはますます恥ずかしくなって小さくなる。
 しかし、逆に火がついたのは一夏だった。
「シャル、こういうのは堂々としてるのが一番なんだ! だから恥ずかしがるな!」
「そ、そう言われても……」
 一夏がひらめく。それは悪魔的発想、逆転の法則。
「だったら、もっと恥ずかしくしてやる!」
 シャルロットのパンダにキリンを横付けした一夏は、強引にシャルロットを抱き寄せて自分の方に乗せる。
 その状態はお姫様抱っこそのもので、シャルロットはもちろん一夏も真っ赤になった。
「い、一夏、これはちょっと……」
「だ、大丈夫だ! 俺たちは今、最強のふたりだ!」
 もはや何を言っているのか判らなかったが、一夏によるシャルロットのお姫様抱っこは『二人乗り禁止』の警笛が鳴るまで続いたのだった。

 それから遊園地のアトラクションを順路に沿って回ったふたりは、ランチをとろうとフリーテラスに移動した。
「気持ちいいね」
 ちょうど湖畔から吹く風が、若干汗をかいた肌に心地よい。
 その風に目を細めるシャルロットの横顔は、まるで一枚の絵画のようだった。
(今日のシャル、なんかキレイだな……)
 いつもよりそう見えるのは、うっすらとひいたピンク色のルージュのせいだろうか。
 男子力(?)の低い一夏は気がつかない。
「どうしたの、ぼーっとして」
「えっ!? あ、いや、べつに……」
 ちょっと照れくさそうに視線をそらす一夏に、シャルロットはいたずらな笑みを向ける。
「もしかして、見とれてた?」
「そ、それは、そのっ……」
「ふふっ。ちがうの?」
「……違わない、かもしれない」
「えっ……」
 一夏の予想外の言葉に、シャルロットはときめいてしまう。
 それからきっかり一分、ふたりは頬を染めてうつむいた。
「ら、ランチにしなきゃね!」
「そ、そうだな!」
 あははとごまかし笑いをして、シャルロットが手作りのマフィンをテーブルに広げた。
「こっちがハムとチーズ、トマトとレタス、それからツナマヨ&コーンにタマゴね」
「おおっ! うまそう!」
 歓喜する一夏の少年顔がうれしくて、シャルロットの胸の温度計がやさしく上昇する。
「最初はどれにする?」
「そうだなあ……よし、ハム&チーズで!」
「うんっ♪」
 ナプキンでマフィンを包むと、一夏に手渡すシャルロット。
 その表情は優しげで、恋人の甘さと母親の安らぎとが混ざり合った、一夏にとっても落ち着く面持ちだった。
「じゃあぼくはタマゴにしようかな」
 それぞれにマフィンを手にして、「いただきます」を言ってから口にする。
「うまい!」
「お気に召してなにより♪」
 シャルロットが多少芝居がかった様子でウインクをする。
 それもまた映画のワンシーンのようで、ついつい一夏は照れてしまった。
「そういえば、一夏って結構お料理できるよね。いつからなの?」
「ん? うーん、いつからだろうなあ。千冬姉の作る料理が壊滅的だから、気づいたら俺が作るようになってたなあ」
「お、織斑先生の手料理ってそんなにひどいの?」
 比較対象としてセシリアをイメージするのは仕方のないことだろう。
「ひどいっていうか、調味料が常に目分量で味付けが濃すぎたり薄すぎたり、あんまり日常的には食べれないというかなんというか……」
 多少、オブラートに包んだ言い方をする一夏だったが、どうも千冬の手料理は危険だということはシャルロットでも理解できた。
「こ、個性的なんだね」
「ま、まあな」
 一夏が二つ目のマフィンに口をつけたところで、「そういえば」と切り出した。
「シャルは? いつから料理をはじめたんだ?」
「ぼく? ぼくはお母さんのお手伝いって感じで小さい頃からしてた覚えがあるけど、最初はジャガイモの皮むきもできなかったよ」
 そこでお互いの家庭事情をあらためて理解して、若干空気が重くなった。
 両親に捨てられた一夏と、愛人の子として生まれたシャルロット。
 自然と触れてはいけない領域に、気がつけば踏み込んでしまっていた。
「ん! このツナマヨもうまい!」
 一夏がちょっとわざとらしく喜びの声をあげる。
 シャルロットは、こういう肝心なところでは気遣いのできる一夏がやっぱり大好きなのだった。
「ね、一夏」
「うん? どうした?」
「ありがとうね」
「な、なにがだよ」
「なにがなんでも、だよっ」
 シャルロットはそう言って屈託なく笑う。
 一夏もまた、つられて微笑む。
 そこにはただただ優しい二人だけの時間があるのだった。

「は〜、いろいろ回ったねー」
 夕暮れ時、一通りアトラクションを満喫したふたりは、なにげなく園内を歩いていた。
 お目当てのナイトパレードまではまだ時間がある。
 さてどうしようかと思っていると、ふと一夏の視線が園内カフェのメイドさんで止まっていた。
 ややきわどい目の短いスカートを穿いた、大人の色気を感じさせるメイド。それに見とれているかのような一夏の視線に、シャルロットはむっとした。
(ぼくが隣にいるのにっ)
 そんな風にむくれていると、ついに最後の大物アトラクションの前についた。
 時間は四時ちょうど、今ならキレイな夕焼けが見れる大観覧車である。
「乗ろうか、シャル」
「…………」
 ご機嫌斜めのシャルロットは、無言でうなずいて大観覧車の中へ。
 一夏はちょっと不思議に思いながらも、後に続いた。
「シャル、なんだか怒ってないか?」
「べっつに!?」
 明らかに不機嫌極まりないシャルロットと向き合って座り、一夏は窓の外を眺める。
「そういえばさっきさあ」
「キレイなメイドさんだったねっ」
 怒りを込めてシャルロットがそう言うと、一夏はまたしてもきょとんとした。
「ん? ああ、うん。それより、シャルが着てたのに似てるなって思ってさ」
 一夏の言葉に、シャルロットはきょとんとする。
 学園祭で着ていたのはロングスカートのメイド服だったはずだし……と考えていると、ついに思い当たった。
「あっ!!」
 そう、ワールド・パージの内部世界で着ていたあのメイド服のことである。
 あのときの体験を思い出し、シャルロットは耳まで真っ赤になってうつむいた。
(うううう〜っ、一夏のえっち、えっち、えっち!)
 本人としては忘れてしまいたいような、でも消してしまうには惜しいような、そんな記憶である。
 そのあたりの気遣いがないのが、一夏のまだまだ未熟な男子力(?)を示しているのだった。
「あっ、見ろよ、シャル!」
 ちょうど二人の乗ったカーゴがてっぺんにきたところで、まぶしいほどの美しい夕日が目に入ってきた。
「わぁ……」
 その黄金と朱色の混じる空を、きっと一生忘れないだろうと。シャルロットは思うのだった。

 夕暮れをすぎ、夜のとばりがおりた遊園地。
 ナイトショーを楽しみにしていた一夏とシャルロットは、人のごった返すパレード前……ではなく、それらを見下ろす高台にいた。
 ここからだとナイトショーのライトアトラクションの全貌が見えるという、隠れスポットなのである。
「一夏って、もしかして誰かときたことあるの?」
「え? いや、はじめてだけど、どうしてだ?」
 シャルロットは、もしかして他の女の子と来たことがあるんじゃ……という疑念に駆り立てられる。
「だ、だって、なんか手慣れてるし……」
 むすっとしたのが六割、いじけたのが四割のシャルロットが言う。
「あのなあ。この日のために俺はネットや雑誌、女子たちの情報網に混ぜてもらったり……とにかく色々駆使して、準備して、大変だったんだぞ」
「そ、そうなの?」
 ドキン。
 心は一転、ときめきに変わる。
「せっかくの遊園地なんだから、楽しまないともったいないだろ」
「う、うん!」
 疑った自分を恥じながら、シャルロットは大きくうなずく。
(一夏がぼくのため……そこまでしてくれるなんて!)
 自然と頬が緩み、笑みがこぼれる。顔もわずかに紅潮し、気分は今にも天にも昇りそうだった。
「ねえ、一夏! 待ってる間になぞなぞしよっか」
「ん? 別にいいけど」
「じゃあね、問題。『女の子は何でできているでしょうか?』」
 高台のベンチでうーんとうなりはじめる一夏に、くすっと笑みを向けるシャルロット。
 悩み続けていると一夏を尻目に、シャルロットはベンチから立ち上がって手すりへと進んだ。
「答え、教えてあげるね」
「お、おう」
 振り向くシャルロット。ふわりとワンピースがたなびく。
「それはね――」
 シャルロットの後ろで、花火が夜空に咲く。
 その光に照らされたシャルロットは、口元に指を立ててささやくように告げた。
砂糖とはちみつシュガー&ハニー
 にこっと微笑むシャルロットは、まるで古典映画のワンシーンを切り抜いたかのようにうるわしく、キレイだった。
 朴念仁の一夏ですら、赤面してしまうほどに。
「だから、寄ってくる虫から守ってね♪」
 ぺろっと舌を出して笑うシャルロット。
 一夏はというと、ついつい照れてしまい、「お、おう」というのが関の山だった。
 こうして、ナイトパレードを締めくくりに、ふたりの遊園地デートは終わったのだった。

 長い長い一日の最後に、シャルロットは一夏に優しく告げる。
「ありがとう、一夏。今日のこと、一生の思い出にするよ」
 その言葉に一夏はまたしても照れながら、「お、おう」とぶっきらぼうに返す。
 そうしてふたりでIS学園の正面ゲートをくぐった。
 これでデートはおしまい。
 けれど、シャルロットはついつい欲張ってしまう。
「ね、一夏……」
 そっと目を閉じ、唇を閉じる。
 わずかにあげた顎が、キスをねだっていた。
 シンデレラの魔法がとけるその前に、最後のわがままをするシャルロット。
 しばし流れる沈黙の時、それが永劫にも感じられて、シャルロットが薄目を開けると、そこには――
「ほう。学園内で堂々と不純異性交遊とは大した度胸だ」
 怒りの炎を背負った織斑千冬(白ジャージ着用)が腕組みをしていた。
「歯を食いしばれ、織斑ぁ!」
 鉄拳制裁。指導者であるまえに、一人の姉としての一撃だった。
 滞空時間二秒の王子様は、地面にぐしゃりと崩れ落ちた。
「あぁ、もう少しだったのになぁ……」
 シャルロットがため息をつくと、その肩に千冬が手を置いた。
「デュノア、おまえには校庭三十周のランニングをつけてやる。どうだ、うれしいだろう?」
 血管マーク浮きまくりの恐ろしい笑顔だった。
 逆らえるはずもない。
「は、はいっ! 義姉様!」
「織斑先生だ!」
 当然のごとく一夏も校庭三十周に付き合わされ、最後は散々な締めくくりとなった。
(でも、焦ることないよね)
 二人の時間はまだまだゆっくりと積み重ねていけばいい。
 そう思うシャルロットなのだった。

おわり ©Izuru Yumizuru, OVERLAP/Project IS